第87話 仏教の讃美歌

讃美歌といえばキリスト教のそれを想い出すが、これはもともと神を讃美する歌であるから仏教では用いない。仏教では仏を讃える讃仏歌として古くは声明(しょうみょう)や御詠歌などがあり、最近では西洋音楽をとり入れた仏教讃歌がつくられている。

古い伝統にとらわれない新しい形式の仏教讃歌がわが国でつくられたのは、明治二十年頃作詩された土岐善静作の『のり深山みやま』がはじめとされる。その後大正七年には仏教学者高楠順次郎が「ルンビニ合唱団」を発足させ、昭和の初期には「仏教音楽協会」が設立された。戦前戦後を通じて多くの仏教讃歌が創作発表され、最近ではこれが各宗寺院の音楽法要にとり入れられ、仏教関係の学校や団体などでうたわれている。また「讃仏歌集」はわが国だけでなく、アメリカでも英文のものが編集出版され、仏教協会の礼拝に用いられている。

西洋の宗教音楽はもともとキリスト教で用いる詩篇から発達し、初代キリスト協会以来いろいろな音楽様式でうたわれてきたが、歌唱は中世に発達したグレゴリオ聖歌以後、もっぱら聖歌隊によってうたわれ、宗教改革後には各国語に訳され、一般会衆がともにうたうようになった。わが国の仏教讃歌はこの西洋の宗教音楽に刺㦸されてつくられたものが多い。そのひとつの試みとして、作曲家の黛敏郎氏は最近『涅槃』や『曼荼羅』などの交響曲を創作発表している。

出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年出版 101ページ