第89話 キリスト教と共通の儀式
仏教とキリスト教に共通した儀式といえば灌頂と洗礼があげられよう。ともに入信者の頭に聖水をそそぐ儀式である。インドではもともと国王の即位のときに、四大海の水を集め頭にそそぐならわしであったが、これが仏教にもとり入れられた。
灌頂(かんちょう)には結縁灌頂と伝法灌頂の二種類あり、前者は一般の入信者に大日如来と縁を結ばせるもので、後者は阿闍梨(あじゃり)という密教の教師になるための加行(けぎょう)を終えたものに与えられる。
灌頂を受けるには、まず大阿闍梨がひかえ、大壇には曼荼羅がえがかれた密室道場に入る。受者はこの道場に入る前に三昧耶戒をうけて目隠しされ、教授者にみちびかれて結界された道場に入り、渡された樒(しきみ)葉を曼荼羅の上に落とす。落ちたところの仏が生涯受者にとって縁ある仏となり、大阿闍梨は受者の頭に聖水をそそぎ、その仏の印を結ばせ、真言を三回唱えさせる。こうして受者は即身成仏の教えに従い仏となる。
わが国の密教の僧侶は、伝法灌頂の儀式を金剛界、胎蔵界の二回うけ、密教僧として必要な道具とともに印信(灌頂許可状)を与えられ、一人前の阿闍梨となって人びとを導びく。この儀式の内容は秘密とされ、もし他のものにもらせば、越三昧耶(おつさんまや)の罪として密教教団から追放されることになっている。
出典:松涛弘道著「誰もが知りたい 217 項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974 年出版 124 ページ