第94話 「秋田音頭は御詠歌」
御詠歌は和詠讃歌の略で和讃ともいい、ちょうどキリスト教に讃美歌があるように、仏に捧げる讃仏歌で、ただ歌うのではなく、唱えあげるところに意味がある。
歌詞は五七五七七、すなわち三十一文字の和歌体で成り立っており、もともとは巡礼や遍路の時に、巡拝する寺院や霊場を讃えて唱えたものが最近では各宗派の宗祖や、歴代の高僧、あるいは行事や場所などを讃え、その宗派の教義などももりこんである。
天平十一年(七三九年)に山階寺(奈良の興福寺)で行なわれた維摩講に光明皇后の「時雨の雨間もなく降りそ 紅に にほへる山の 散りまく惜しも」の三十一文字の歌が仏前で市原王、忍坂王など十数人によって唱えたのがはじめとされている。御詠歌としては、永仁二年(九八八年)に西国三十三番霊場の歌として詠まれた花山法皇の「昔より
風にしられぬ燈火の 光りにはるる 後の世の闇」がはじめであろう。
現在、地方の民謡となっているものの多くは御詠歌から派生したもので、伊勢音頭、江州音頭、秋田音頭などはその代表的なものである。室町末期ごろから僧侶によってひろめられた盆踊りや念仏踊りの歌詞も一種の御詠歌で、能登輪島の「まだら節」、美濃の「ほそり節」や会津の「玄如節」なども仏教色が濃い。
出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年出版 100ページ