第36話 『正しい焼香のしかた』

元来、香というものは体臭や周りの悪臭をとりのぞくためにインドにおいて使われていたものです。
香はたくだけではなく、塗香(ずこう)といって手や体に塗る香もあり、それによって心身を浄めてから仏や尊者の前に出るしきたりでした。
お釈迦様以来、二千五百年も営々と続けられてきた作法です。

香をたく、ということは自分自身の邪気をはらい、体や心の汚れをのぞき、清浄になるという意味もありますが、同時に他人の汚れも取り除くという功徳もあります。
日本においては、香をたくことによって自分の心を仏様に運んでくれるものと考え、ご仏前やご霊前を浄め、敬けんな心を持って供養する、という意味から仏事に香をたく習慣ができあがりました。
一堂に集まった人がそれぞれに香をたき、自分もそして周囲の人も浄めて冥福を祈る、これが焼香の本義です。

葬儀や告別式、お通夜、法事の時には抹香(まっこう)をたき、普段のご供養では線香をあげることが一般的。お通夜の席で抹香と線香が置いてあったら、個人個人で故人に礼拝するときは線香を使い、儀式が始まってから抹香をたく、と考えてください。
葬儀の際、焼香は立式が多いようですが、座式であっても焼香の要領は変わりません。
焼香の順番がきたら、次の客に軽く会釈し、霊前に進みます。遺族に一礼してから焼香台の前に立ち、位牌に目を止めて一礼してから焼香します。
このときの焼香のしかたが、いろいろあって迷うところです。宗派によってもそれぞれに違いがありますので後述しますから参考にしてください。
しかし、一般的にいえば、それが何宗であろうとも心がこもっていることが第一で、一心を込めて焼香すれば、どれもまちがいではありません。

ごく一般的には、抹香を親指と人差指、中指の三本で軽くつまんで、軽く捧げてから香炉に少しずつ落とし、1~3回繰り返します。
焼香したら合掌礼拝して、前向きのまま少し後ろに下がり、遺族に目礼して自分の席に戻ります。

葬儀やお通夜の席上、焼香の際のおじぎは、ご霊前にすべきものであり、遺族や僧侶には軽い会釈か目礼でいいという人がいますが、心情、礼儀からいってもていねいにおじぎすべきものです。
もちろんバカていねいである必要はありませんが、礼を失わないようにします。