第70話 千手(せんじゅ)観音の手は何本?

千手観音は、グロテスクのかたまりだ、というひともいるが、とんでもない。われわれのあらゆる苦しみや悩みを引きうけて下さる忙しい観音さまである。読んで字の如く、正式には種々な持物をもっている。斧のほしい人には斧を、矢のほしい人には矢をというように、人のほしいと願っているものを与えて下さるというのである。頭部も本来ならば千の眼を持つところから千手千眼観自在菩薩とも呼ばれ、人びとをあますところなく救うところから、観音の王様、すなわち蓮華王ともいわれる。

実際の観音像の頭部は一面、十一面、二十七面で、手は十八もしくは四十手を大きく作り、ほかはこまかくして左右に五百本ずつある。しかし、こんなに沢山の手を作るのは困難なので、初期のものを除いて、簡潔を好む日本人向きに次第に左右二十一本ずつ、合計四十二手のものになっていった。

千手観音は養老元年(七一七年)に遣唐使とともに中国へ渡った僧正玄昉げんぼうによってわが国にもたらされ、のちに唐僧鑑真和上がんじんわじょうが七五四年に同像を持参し、これを参考にして奈良唐招提寺金堂安置の千手観音がつくられたという。この観音像は本当に左右五百本の手がある。観音信仰は平安初期以来盛んになり、京都東山三十三間堂に安置されている国宝の観音像は、建長三年(一二五一年)七月二十四日から大仏師湛慶たんけいによってつくりはじめられ、そのとき師は七十九歳といわれ一世一代の力作である。この観音さまはその信者を守る役目をもつ二十八部衆と風神雷神の三十体を従えている。

出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年 29ページ