第72話 香典返しのしきたり
香典はもともと、故人の菩提をとむらうために仏前にたむける香の代わりで、遺族を助ける意味もあり、お返しする性質のものではない。しかし、仏弟子が師匠から遺具の形見分けを貰うように、お返しをすることが故人の供養になるところから、香典の半返し、三分の一返しといって、頂いた金額の半分以下の品物を記念に返すならわしがある。この香典返しは、仏事をとどこおりなくすませたお礼の意味もあり、四十九日の忌明けに喪主の挨拶状とともに送る。略式に、葬儀の当日香典とひきかえに渡す場合もあるが、物品交換にならないよう注意すべきである。
香典返しは会葬弔問などのお礼を述べた挨拶状をそえて、風呂敷や白布などを、貰った金額に関係なく送るのが普通であるが、金額によっては品物を二、三種類に分けても差し支えない。受取る側は決して礼状は出さない。
最近では、葬儀の虚礼化をうれいて、香典や供花、供物を固辞する遺族もふえている。その際は前もって死亡通知状に、故人の遺志により万一持参した場合でもお辞りするむねを明示しておくこと。また香典を貰っても、そのお返しをせずに、集まった金額を社会福祉施設に寄付する遺族もいる。
香典のやりとりは美しい助け合いの心がこめられている限り決して否定されるべきではなく、むしろ物心両面ともに、歎き悲しむ遺族の手助けともなることであるから、最大限の援助をすべきである。しかし、葬儀を自己宣伝の道具に使うとすれば、もってのほかだ。
出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年出版 192ページ