第93話 「盆踊りの輸出」
お盆の行事の圧巻は、何といっても盆踊りであろう。お寺の境内や町の広場などで、盆に招かれた先祖の精霊をなぐさめるためにヤグラを組んで、その周囲を輪になって踊る。旧盆の十四日から十六日まで徳島市内で踊る阿波踊りや、広島県三原市のやっさ踊り、秋田県羽後町の盆踊りなどは有名である。
盆踊りは、釈迦の弟子目蓮が餓鬼道におちた母を救ったとき、うれしさのあまり小躍りしたのがはじまりともいわれているが、インドや中国には盆踊りの習慣はないので、おそらく作り話であろう。
わが国では、平安時代の空也上人の奨めた踴躍念仏が盆踊りのはじまりで、鎌倉時代の一遍上人の念仏踊りに引き継がれ、時宗が盛んになるにつれて全国的にひろまったといわれる。室町時代の初頭には、盆の時期に人びとが口に念仏や和讃を唱え、鐘太鼓をたたきながら踊ったもので、盆に帰った先祖の霊をしずめる「タマシズメ」の役割をはたした。江戸時代になると、太鼓や笛の伴奏で、七七七五調の民謡を唱和し、あるいは即興的にうたって踊る娯楽的な行事になり、ローカル色豊かな盆踊りが各地で行われるようになった。
明治時代や戦時中には一時衰えたが、最近各地で復活し、遠くハワイやアメリカ本土まで伝わり、フランスのカンヌ祭にまで進出している。
出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年出版 109ページ