第96話 「お正月の行事」

正月は神社に初詣をするものだと考えられがちであるが、各寺院では「修正会」(しゅしょうえ)という行事がある。地方の寺院では「おこない」と呼んで、正月の一定の日に関係者が集まり、読経ののちに酒宴をはり、新年を祝う行事である。

裸まつりで有名な岡山市西大寺観音院では、旧正月一日から十四日まで修正会が開かれ、牛王加持(ごおうかじ)が行われる。読経中に楊製の牛王杖で床をたたき、乱声(らんじょう)といって、この音で悪魔を払う。また結願の十四日の夜には、牛王紙に包まれたシンギを加持し、裸になって外で待ち受けている人びとの中に投下される。これをつかむと功徳があるというのであらそってうばい合う。

大和の長谷寺の唯押(だだおし)や四天王寺の「どやどや」や浅草寺の牛王加持などもみな悪魔ばらいの修正会の俗称である。

東大寺のお水取りや薬師寺の花会式(はなえしき)で知られる「修二会」(しゅにえ)も、修正会と関係ある行事である。お水取りには香水加持があり、若狹井(わかさい)から汲み上げた水を加持して香水にし、これを飲めば病気がなおるという。花会式では大きな造花十二瓶を仏前に供え、薬師寺伝来のはなやかな声明を唱えて五穀の豊穣を祈る。

こうした正月にちなんだ行事は、インドや中国にはなく、わが国独特のものである。

出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年出版 104ページ