第62話 娑婆(しゃば)

『娑婆』はインドの古語サンスクリット語の『サハー』をそのまま音訳したもので、娑婆という漢字そのものには何の意味もありません。私たちが住んでいるこの世の中、現実の世界のことです。『サハー』には、「堪え忍ぶ」という意味と「大地」という意味があり、『忍土』あるいは『苦界』などと意訳されています。この世の中は、人間同士のトラブル、迷いや苦悩、または風雨寒暑があり、そこで生活する以上は堪え忍ばなくては生きていけないところだというのが『忍土』の意味です。この『忍土』も制約の多い軍隊や刑務所暮らしから見ると、多くの自由があるので、「娑婆の空気はうまい」などと使われ、一般的には、娑婆というと楽天地のように思われてきました。したがって、本来の意味とはまったく正反対の意味で使われてきたといえます。

世の中には、どうすることもできないことがあり、堪え忍ばなくてはならないこともあります。それを心にすえたとき、はじめて活路が見いだされるのではないでしょうか。

『順境におごるは苦難となり、逆境に悟れば楽園となる』

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より