第74話 大衆(たいしゅう)
大衆というのは、いうまでもなく多数の人びと、おおぜいの人びとのこと。日本では明治時代以後、社会の大多数をしめる労働者や農民など勤労者のことをいう、やや特殊な意味をもつことばとなり、大衆運動家なるものが現れ政治や社会面で活躍したこともありました。また、大衆食堂、大衆酒場、大衆芸能、大衆小説などのように使われ、少し軽んじられた意味にも用いられています。もとは、インド・サンスクリット語の「多くの人びとの集まり」を意味することばを漢語に訳したもので、仏 教では、大衆を「だいしゅ」または「だいしゅう」と読み、修行僧の集団のことをいいます。お釈迦さまが亡くなって100年程が過ぎた頃、戒律をあくまで厳守すべきであると主張した保守的伝統主義的な仏教教団に反対する僧たちが集まって、革新的寛容的な考えをもつ集団を作りました。この集団の方が人数が多かったので大衆部というようになったといいます。
この大衆部の考え方がのちの仏教に大きな影響をあたえ、中国、日本と伝えられた大衆仏教の源流とにったともいわれています。いまの大衆は、「いかにも一般大衆がよろこびそうな」という程度で、いささか、精彩を欠いている感じがします。
静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より