第103話 皮肉(ひにく)

私たちはふだんの生活の中で、人から皮肉を言われたり人に皮肉を言ったりすることがよくあります。この場合の「皮肉」とは、遠回しに意地悪く弱点などを言うことで、あてこすりとか、いやみといってもよいでしょう。しかし、仏教でいう場合の「皮肉」とは、仏教の根本理念に対する表面の皮のことで、いわば幹に対する枝の部分ともいえます。この「枝」、つまり枝葉末節の部分ばかりを論じて、肝心の幹の部分である大事な箇所をおろそかにして学ぼうとしない的はずれな態度を遠回しに非難して「皮肉を言う」というようになりました。また「皮肉骨髄」という熟語があって、これは皮と肉と骨と髄で、身体のすべてのことですが、転じて信念とか思想、行動などすべてをひっくるめて皮肉骨髄といいます。さらにいえば、人格そのものであり、人間の本質のことでもあります。何を学ぶにしてもうわべだけを学んで、大切な骨髄(真髄)を学ばなければ、本当にその道を習得したことにはなりません。

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より