第106話 涅槃(ねはん)

二月十五日には、お釈迦さまがお亡くなりになった日ということで「涅槃会(ねはんえ)」を執り行う寺院も多いことでしょう。「涅槃」というと、一般には「死」を意味しますが、原語はインド古語のサンスクリット語の「ニルバーナ」で、それを漢訳して涅槃となったものです。意味は、火を消すこと、または吹き消した状態をいいます。ニルは吹き消す。バーナーは火という意味です。
私たちの人生において苦悩や煩悩といったものは、生きているかぎり少なからずあるわけです。その煩悩を火にたとえ、修行と努力によって、煩悩の火を吹き消し、取り除けば、さわやかで清浄な心になることができるわけです。そこで涅槃を「清涼」とも訳し、すがすがしく澄みきった心、つまり悟りのことでもあります。しかし、人間である以上、生前に煩悩の火を完全に吹き消すことは不可能といってよく、それならば修行は不要ということになりますが、大切なことは、涅槃を目指して、ひたすら努力する心であり、その姿勢にあるわけです。
   
  静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より