第112話 普請(ふしん)

家を建てるとか、道路を補修することを「家普請」とか、「道普請」といいますが、最近は「建築」とか「道路工事」という表現が多くなってきて、「普請」という言葉も聞かれなくなりました。昔は、家を建てたり、道路を補修するときは、近所の人達がお互いに都合をつけあって奉仕作業に出かけたものでした。もとは禅宗のお寺で使われていた言葉で「あまねく請う」ということ。お寺中のお坊さんを集めて共同でなんらかの仕事を行うことを意味しました。その内容は、農事、除雪、植林、清掃、改築工事など、修行僧が総動員で労役に従事したもので、それがそのまま修行とみなされておりました。この語が中国から日本に伝えられ人々が協力して勤労奉仕することを「普請」というようになりました。個人の家を建てるにも村を上げて協力するというのでこの語が用いられるようになったのです。しかし、現在では建築業者にお金を払って家を建てさせる場合にも「家を普請する」というので、元の意味からするとおかしいわけですが、今の世の中、家の新築、改築に隣近所の人手をかりるなどとても考えられないことで、念願のマイホーム、いくらお金を払うからとはいっても建築業者の人には「皆さんよろしくお願いします」ということになるわけで、やっぱり「あまねく請う」なのかもしれません。

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より