第127話 油断(ゆだん)

「油断大敵」とか「油断もすきもない」などと使われるこの言葉の語源には、二つの説があります。

そのひとつは、昔インドのある王さまが家来の心を試そうとして、なみなみと油を入れた鉢を両手に持たせて、人通りの多い道路を歩かせることにしました。途中でもし一滴でも油をこぼしたら、命を絶つという厳しい命令でしたが、その家来は細心の注意を払ってゆっくりと歩き、ついに一滴もこぼさず、命が助かったばかりでなく重要な役職に取り立てられました。

また別の説には、お釈迦さまの弟子の中に、乱暴でそこつ者がおりました。あるとき大事な灯油を油皿に入れて運ぶ途中、落としてこぼしてしまいました。
その不注意を「緊張感と注意力が散漫だからだ」と厳しく叱られました。

以上の二つが油断の語源になったと言われている説話ですが、どちらにも共通している点は、気持ちを引き締めるための戒めの物語となっていることです。そこから「油断」の語が生まれ、今も常用されているのです。「油断大敵」といいますが、これは本当の敵は他にあるのではなく、自分自身の心のたるみこそ、一番の大敵だということを、知らなければなりません。

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より