第128話 利益(りやく)

「利益」という字は二通りの意味で使われています。「りえき」と読めば「もうけ」とか「とく」であり、「りやく」と読めば「神仏が人々などに恵みを与えること」の意味となります。神仏に祈ることによって、ある種の結果がもたらされるとされ、その結果のことを「御利益ごりやく」といいますが、祈りと利益の関係は、大変に複雑であって簡単に言うことはできません。

例えば、A君が就職試験の合格を神に祈ったとします。しかし残念ながらめざす会社から不合格の通知がきて、やむなくA君は第二志望の会社に入社することになりました。実際上、御利益はもたらされなかったように思われます。しかし、A君は『自分は全力を尽くしたし、神にも祈った。それでもなお、めざす進路をとることはできなかった。これもまた神のみ心であろう』と考えました。こうしてA君は、第二志望の会社で実力を発揮し、充実した生活を送ったとします。この場合、はたしてA君に御利益がなかったと断定できるでしょうか。

B氏は、ギャンブルの勝利を神に祈りました。その結果、B氏は大勝して大金を手中にしたとします。B氏は御利益があったと大喜びするわけですが、結果として勤労意欲を失い、酒におぼれて健康を害し、悪銭身につかずで悲惨な生活を送るはめに陥ったとします。このような場合、本当に御利益があったといえるのでしょうか。

御利益のサンスクリット原語には「健康によい」「幸福をもたらす」という意味があります。人間に幸福をもたらすものでなければ御利益も無益にかわります。
利益はそれをうけとめる人間の心のあり方いかんが問題となるように思われます。

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より