第130話 無常(むじょう)
『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を顕す。奢れる人も久しからず、唯春の夜の夢の如し。』と「平家物語」の冒頭にあります。
私たちは、とかく外界の事物を固定的なものとしてながめる習慣がついています。しかし、実際のところ固定的で永遠不滅のものは存在しません。
太陽はさんさんと輝き、変わりなく光をわれわれにふりそそぐかのように見えますが、これとても永遠ではありえない。太陽が滅び去れば、われわれの住む地球も滅びざるを得ない。
そんな大きな対象を考えなくても、われわれのまわりを見渡してみれば充分すぎるほどです。コップは割れるし、洋服や靴はすり切れる。人間も同様です。いつまでも若いままでいることはできない。あっという間に年をとる。年をとるほどに月日の過ぎ去ることの早いのに驚かされる。「諸行無常」は、万物が変化するという事実を、ありのままに述べているのであり、生じたものは必ず滅する、すべては変わってゆくという事実を正しく把握した上で、限りある生命に無限の価値を見出そうというのが本意なのです。
限りあるからこそ生命は大切にしなくてはならないし、短いからこそ貴重であるともいえます。すべては刻々と変化するから、一瞬たりともおろそかにできない。「無常」は、仏教における基本的人生観を示す言葉です。
静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より