第68話 仏像の「JIS規格」

ギリシアの彫像は自由奔放につくられて写実的であるが、同じギリシアの影響を受けてつくられた仏像は人間ばなれしている。

そもそも仏像のもとである釈迦像は、釈迦が入滅してから弟子たちに思慕の念が高まり、釈迦を超人間的な人物として描くようになってからつくられた。西暦紀元ごろからその人格を具象化するようになり、精神的な特質として十八の不共法ふぐほう、肉体的には三十二の特質(三十二相)と八十の小さな特質(八十種好)をそなえていると信じられている。
これらの特質は経典や儀軌ぎきの規則となって今日まで伝わり、自由勝手につくりかえることは許されない。この規則によると、仏像の身長は正式には丈六像といい、四・八メートル弱の高さの立像や座像にしたり、この半分すなわち二・四メートルのものでなければならないとする。また身長と両手を拡げた長さが等しいとか、ひとみは青色であるとか、男根は体中にかくされているとか、身体の色は黄金でなければならないとされてる。

わが国に仏教が伝わった直後の飛鳥、白鳳、天平の時代には、おもに経典に基づいて仏像が鋳造されたが、次の貞観、藤原の時代になると、インドや中国で発達した儀軌がもたらされ、これによって多くの仏像の容姿、色彩、種子(それを象徴する梵字)や持物などが厳密に規定された。このお陰で、われわれが現在、種類の多い仏像を識別するのに大いに役立っている。