第98話 柔軟(にゅうなん)

「柔軟に対処する」とか「柔軟に受け止める」などというように使われる『柔軟』は、一般には「ジュウナン」と読みますが、仏教では「ニュウナン」といいます。『法華経(ほっけきょう)』というお経の中に出てくる言葉で「質直意柔軟(しつじきいにゅうなん)」とあります。まっすぐで素直な心というものは、弾力性のある柔らかな心の状態であるといったような意味です。「柔」も「軟」も、ともに「やわらか」と読みますが、穏やかで安定した心が基本にないと柔軟にはなれません。柔軟とは、行動に誤りがなく物事を正しく把握し、あるがままに受け取ることのできる広く大らかな心の状態のことで、それがまた、人間のまことの心であり姿でなければならないと教典は伝えています。素直で片寄らない心をもって人と接し、物事に対処するならば、さわやかな生きがいのある過ごし方ができることでしょう。

 

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より