第108話 般若 (はんにゃ)

般若というと、恐ろしい形の鬼女のお面を連想する人が多いことでしょう。なぜ鬼女の面を般若とよぶようになったかは定かではありませんが、奈良の般若坊という人が作り始めたからともいわれています。般若はインド古語サンスクリット語のプラジュニャー(Prajna)あるいはパンニャー(Panna)を中国で漢字に音訳したものです。意味は悟りを得る真実の智慧、すなわち最高の真理(人間にとって大切な道理・筋道)のこと。日常使っている言葉の知恵(物事を考えて合理的に処理する能力)とは大分意味合いが違い、もっと深遠な力を示しています。般若心経というお経がありますが、正式には『摩訶(まか)般若波(はんにゃは)()(みっ)多心経(たしんぎょう)』といって、訳せば「大いなる最高の真理の教え」といったところです。

摩訶は大きい、波羅蜜多は完全にして最上なるものという意味、あるいはその状態のことですが、仏道修行の方法として六種類の波羅蜜多(完成)がいわれています。それは一、布施(ふせ)(思いやりの心)、二、持戒(じかい)(ルールを守る)、三、忍辱(にんにく)(忍耐)、四、精進(しょうじん)(努力)、五、禅定(ぜんじょう)(沈着冷静な心)、六、智慧(ちえ)(真理)の六種類を完成することです。一~五までは、実践活動としての手段のことですが、六、智慧は、直接悟りに結びつく根源的な叡智(優れた知恵の働き)なのです。お釈迦さまも、この般若波羅蜜多を修行して仏陀(目覚めたる者)となられたのです。

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より