第122話 無学(むがく)

「無学なもので、おはずかしいかぎりです。」というふうに用いられるこの言葉は、本来の意味からすれば、おはずかしいどころではなく、だれもが求めてやまない理想だったのです。「無学」の本当の意味は「学がない」ではなく「もはや学ぶべきことがらはない」ということです。もうすべてを知りつくし、体験しつくした、もはや人から教わるようなことは何もないということで、修行者の理想をあらわした言葉なのです。もちろん無学の人はさとった人にほかならない。

これに対して「有学うがく」という言葉があります。「学がある」、したがってずいぶん偉いんだな、というのは全く逆で、「まだ学ぶべきことがある」「未熟者」という意味をもつ言葉なのです。「学のある人にはかないませんなぁ」という用い方は、本来の意味からすると「あなたは何も知らないで困りましたなぁ」ということになり、本来の意味と現在の意味とが全く逆転しているのが「無学」なのです。

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より