第126話 融通(ゆうずう)

「お金を少し融通してほしいのだが」とか「仕事を融通してみましょう」などと、日常よく使われるこの言葉は、金品の貸し借りや、やりくりをする場合に主として用いられます。この場合、障害もなくスムーズに通用させるといったような意味ですが、仏教語としての本来の意味は、この世の中すべてのものは、異なった別々のものであっても、お互いに支えあい、あるいは関連しあって存在しているということです。私たちの社会の構造は、すべて融通によって成り立っています。

たとえば製品を造っている人は、それを購入し使ってくれる人がいるからこそ、職業も生活も成り立つわけですし、製品を使用する人は、それを製造する人がいてくれるからこそ、これまた生活ができるのです。会社の労使関係もまた同様です。

自然界の空気、水、土、樹木、生物などの相関関係も、融通でないものは何一つとしてありません。そうした神羅万象、ことごとくのものが、互いに融通しあっている現象を、仏教経典では「融通(ゆうずう)無碍(むげ)」と表現しています。「無碍」とは、さまたげがないということです。家庭でも社会でも、意見や思考が互いに異なっていても、お互いの意思が疎通しあい、コミュニケーションが図られ、心が融通していればトラブルは起こらないでしょう。それがお互い頭では分かっていても、実際の面でうまくいかないのはなぜでしょうか。融通のことわりを考えてみたいものです。

静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より