第69話 薬師如来は万能の名医

薬師如来は別名、瑠璃光如来とも大医王如来とも呼ばれ、七宝からなる浄瑠璃浄土に住む仏である。邦楽の浄瑠璃の名もここからとった。奈良時代以来盛んに信仰され、元興寺、興福寺、唐招提寺などではこぞってこの仏をまつり、薬師寺も天武天皇の皇后(後の持統天皇)の病気平癒の祈願にたてたほどだ。平安時代に入って、比叡山延暦寺で薬師如来を本尊仏としてからは、今日まで多くの天台宗寺院や山間の温泉場などで医療の仏として薬師堂にまつってある。

薬師如来は、はじめ釈迦如来と同じような形をしていたが、平安時代以後は右手に宝珠あるいは薬壺をもち、ほかの如来と区別された。この仏像の光背には七つの化仏が配され、左右には日光、月光がっこうの両菩薩と十二神将をしたがえている。
日光、月光の両菩薩は、ともに宝冠をかぶり、日光は手に日輪を、月光は月輪を持っているから容易に区別がされる。やや腰をひねっているが、このホーズはインドに発し、中国を経てわが国で流麗な姿態に仕上げられた。日光とは真理がいつもあらわになっていること、月光とはそれが人びとにかくされる場合のあることを意味している。

十二神将は『薬師如来本願経』によれば、救脱菩薩が仏弟子の阿難に薬師如来の功徳を説いたとき、それを聴聞していた人びとの間から十二人の大将が起立して、薬師如来を供養し讃歎する者を守護するであろうと誓ったという。のちにこれが十二支と結びつけられ、昼夜十二時の護法神ともなった。

出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年 27ページ