第75話 お中元はお盆から始まったのである

盆と正月は一年のうちに必ず訪れるわが国最大の行事のあるときである。正月は年の始めであり、盆は一年のなかばで、過ぎ去った半年への反省とこれから半年への展望をするのによい時期である。

盆には「御中元」という贈答の習慣がある。これはもともと中国の道教に伝わる行事で、地官の愛の神をまつった七月十五日の祭りに、インドから伝わった仏教の盆の行事が結びついたものである。

御中元に品物を贈答するようになったのは、わが国の室町時代に、中元の日に贈りものを仏前に供えたあとで集まった人びとが一緒に食べた習慣が、次第に生見玉(いきみたま)である親にも贈りものをするようになり、これがほかの人びとにも拡大解釈されるようになったのであろう。

盆とは正しくは「盂蘭盆会」(うらぼんえ)といい、梵語の「ウランバナ」を音写したもので、さかさにつるされた地獄の苦しみをあらわし、それを救う行事が盆である。
『盂蘭盆経』によれば、ある日釈迦の弟子の一人である目蓮(モツガラーナ)が、今はなき母が地獄の世界で苦しんでいるのを神通力で知り、その母をどうしたら救えるかを釈迦に尋ねたところ、「お前の母は一人の力で救うことはできない。幸い七月十五日に多数の僧侶が夏の修行を終えて集まるから、その力をかりて三世の諸仏や過去七世の父母を供養すれば救われるであろう」と説かれた。
目蓮は教えられたとおりのことをしたところ、目蓮の母は救われたという。
このいいつたえから、今日でも盆には先祖の墓に果物や野菜を供え、僧侶に食事の供養をする。

出典:松涛弘道著「誰もが知りたい217項 仏教のわかる本」廣済堂出版
1974年出版 108ページ