第107話 提唱(ていしょう)
なにかとよい案とか、よい方法を示し、説明して賛否を問い、批判を仰ぐことを提案といいますが、これとよくにた言葉に「提唱」があります。「アメリカのドット夫人の提唱により父の日が制定されました」というように「提唱」という言葉は、なんらかのアイデアを人々に示すというときに使われています。提案も提唱も会議などの際、しばしば使われる言葉ですが、提案よりも提唱のほうが強いひびきをもっています。もとは禅の修行の中で使われる言葉で、先生(師匠)が経典の内容や教義などの意味を弟子や修行僧に提示して説明し、考えさせることをいいます。つまり学校でいう講義のようなものですが、「提唱」は講義する側も受講する側も真剣に取り組まなくてはならない修行のひとつとなっています。この「提唱」が一般社会において使われるようになったのは、この言葉のもつ、やや堅苦しくて重い雰囲気が評価されたものでしょう。
静岡県成道寺 伊久美 清智師 著より